脂質異常症
脂質異常症という病気を知っていますか?血液中の脂肪分(中性脂肪やコレステロール)の量に異常がみられる状態のことをいいます。昔は、高脂血症とか、高コレステロール血症という名前で呼ばれていましたが、脂肪分が高いことだけでなく、低いことも問題になることから、名称が変更されました。脂質異常症は、ほとんどの方が健康診断などで数値の異常を指摘されて初めて判明します。加齢により発症しやすくなり、男性では40歳以降、女性は閉経後によくみられるようになります。高血圧や痛風と違い、脂質異常症そのものには痛みや不快感などの自覚症状はありません。このため放置されがちですが、徐々に血管がカチカチのモロモロになっていき、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。脂質異常症は動脈硬化の最大の危険因子なのです。
わたしって、脂質異常症なの?
自分が脂質異常症かどうか、それは単純に3つの血液検査のデータで決まります。
3つの項目のうち、どれか1つでも当てはまれば脂質異常症と診断されます。過去の健診結果を出してきて、一度チェックしてみましょう。ただし、心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある人、糖尿病や腎臓病の持病がある人などは目標値が異なりますので、医師に相談してくださいね。
LDLコレステロールとは
「悪玉」なんて呼ばれているLDLコレステロールですが、普段はとってもイイヤツです。
①精巣ホルモンや卵巣ホルモンの材料になる
②細胞膜を作る
③胆汁酸の材料になる
など、私たちの体の中でとても大切な働きをしています。しかし、このような大切な役割とは別に、LDLコレステロールが一定量を超えてくると、血管の中にこびりつき、血管が硬くボロボロになっていく「動脈硬化」が起こります。「コレステロールが動脈硬化に深くかかわっている」という事がわかってきた事から、LDLコレステロールは、ワルモノ扱いされ「悪玉コレステロール」と呼ばれるのです。
HDLコレステロールとは
一方、「善玉」であるHDLコレステロールは「血管のお掃除屋さん」と呼ばれています。なんと、血管にこびりついたコレステロールを回収してくる、ゴミ収集車のような働きをしているのです。このHDLコレステロールの値が低い人は、ごみ収集車の数が少ないということなので、血管にたまったコレステロールを十分に回収できず、動脈硬化のリスクが上がってしまいます。
血管にこびりつき「ゴミ」となったLDLコレステロールと、「ゴミ収集車」として働くHDLコレステロールのバランスが悪くなると、動脈硬化はすすみます。LDLコレステロールとHDLコレステロールの比である「LH比」が1.5以下であれば血管はキレイな状態が保たれます。2.0を超えると動脈硬化が疑われ、2.5以上になると血栓ができて心筋梗塞のリスクが高まります。
中性脂肪とは
私たちの体は、食べ物から得たエネルギーのうち、余った分を中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪などの体中の脂肪組織に蓄える性質を持っています。中性脂肪は、
①体を動かすエネルギー源になる
②体温を保つ
③内臓を保護するクッションの役目
など、大切な役割があります。しかし、食べ過ぎや飲みすぎにより糖分や脂質をとり過ぎると、血液中に中性脂肪が増えていきます。中性脂肪とHDLコレステロールは逆の相関関係があるため、中性脂肪が増えてくると、大切なゴミ収集車であるHDLコレステロールは減ってしまいます。また、中性脂肪が高くなると、LDLコレステロールが小型化して「超悪玉」と呼ばれるスモールデンスLDLコレステロールになり、血管壁の傷に入りやすくなります。中性脂肪は、間接的に動脈硬化を進めてしまうのです。
また、中性脂肪が500mg/dl以上になると、すい臓が炎症を起こし、10人に1人が亡くなってしまう「急性すい炎」という病気を起こす原因になるので注意が必要です。
このように、脂質異常症を放置しておくと動脈硬化がすすみ、心筋梗塞や脳梗塞、膵炎など命に関わる病気を発症する原因となります。
どのくらいの数値になったら病院で相談した方がいいの?
では、どのくらいの数値になったら病院に行くべきなのでしょうか?LDLが基準値の140mg/dLを超えたら病院を受診するのもいいですが、特に要注意なのはLDLが160mg/dLを超えてからです。
なぜ、LDLコレステロールは160mg/dLから要注意なのかというと、心筋梗塞などの心臓病リスクが
・LDLが160を超えると2.6倍
・LDLが180を超えると5.7倍
になったという日本人対象の研究結果※1が出ているからです。また、
・中性脂肪が300を超えると心臓病のリスクが2倍
・中性脂肪が500を超えると急性すい炎のリスクが上昇
になったという研究結果※2,※3があります。
どうしてコレステロール・中性脂肪があがってしまうのだろう?
脂質異常症が起こる主な原因は、食べ過ぎ、お酒の飲みすぎ、タバコ、睡眠不足、運動不足など生活習慣の乱れと、加齢です。その他にも遺伝的にコレステロールが高くなってしまう家系の人がいます。そのような家系の人は特に動脈硬化がすすみやすいと言われておりより、強力な治療が必要だと言われています。
①男性は生活習慣の乱れに注意
男性は、女性に比べて20代、30代の若いうちから脂質異常症を疑われる人がめずらしくありません。これは、働き盛りで仕事が忙しく、生活が不規則になりがちであることが考えられます。朝食を抜く、夜遅い時間の食事、睡眠不足、ドカ食いなどで体重が一気に増えることもよくあります。女性ホルモンに守られていない男性は、普段の生活習慣の影響がとても大きいのです。
②女性は閉経後の体の変化に注意
女性は、更年期に入るとLDLコレステロールが上がりやすくなります。女性ホルモンの「エストロゲン」は、LDLコレステロールが肝臓で作られるのを抑えたり、余分なLDLコレステロールを肝臓で回収しやすくする作用があります。そのため、女性ホルモンが豊富な40代くらいまでは、LDLコレステロールが上がりにくいのです。女性のLDLコレステロールが急上昇する時期は、エストロゲンの急下降期(更年期)と一致しており、下のグラフを見ても一目瞭然です。エストロゲンに守られていた女性は、閉経するとLDLコレステロールが勝手に上がってくるのが自然であるため、食生活や運動習慣を見直すよいタイミングになります。
③遺伝が原因の家族性高コレステロール血症
200人から500人に一人程度、遺伝的にコレステロールが高くなってしまう家系の人がいます。運動が大好きで、食生活に乱れはなく、健康的な体形であるにもかかわらず、LDLコレステロールが高いのです。LDLコレステロールを肝臓で取り込む受容体の遺伝子や、これを働かせる遺伝子に異常があります。そのような家系の人は生活習慣の見直しだけでは十分にコレステロールが下がらず、動脈硬化がすすみやすいと言われています。若いうちから治療を開始し、心臓病や脳梗塞の発症を予防していきましょう。
まえの内科クリニックからのメッセージ
生活習慣病への意識や、生活習慣改善の実行力は患者さん一人一人異なります。熱心に言われたことを実行する人もいれば、仕事が忙しすぎて運動する時間がない人、食事を作ることができない人もいます。当院では、なるべく難しいことをいわず、その人にできる事から少しずつ改善していただけるよう、心掛けて診療しています。
「薬を飲み始めると一生飲み続けなければいけないの?」という質問に対しては、お薬をやめても、目標値をクリアできると判断された場合は、中止していくことも可能です。お薬をやめれるかどうかは、あなた次第です。そのお手伝いをさせていただければと思っていますので、一緒に取り組んでいきましょう。
参考文献
・※1 Masunori Matsuzaki,et al. Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia. Circ J. 2002 Dec;66(12):1087-95.
・※2 Michael J Murphy,et al. Hypertriglyceridemia and acute pancreatitis. JAMA Intern Med.2013 Jan 28;173(2):162-4.
・※3 Masunori Matsuzaki,et al. Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia. Circ J. 2002 Dec;66(12):1087-95.
・厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」